【食べることも愛することも、耕すことから始まる】
クリスティン・キンボール箸
この本をおススメしたい人:
●「脱サラして田舎で自給自足を目指したい、有機農業の世界に入ってみたい!」
という都会育ちの方。
●ライフスタイルがあまりにも違う彼との結婚を考えているキャリア女子。
ハーバード大学卒業、フリーライターのニューヨーク育ちの女性が、
有機農業生産者と恋に落ち、結婚。
都会での華やかなライフスタイルを捨て、「車なんか使いたくない!貨幣経済反対!」
な極端にライフスタイルの違う男性に惚れてしまい、農業の世界に飛び込む奮闘記だ。
二人は、田舎に土地を買い、CSAという地域支援型農業(地元の農業の維持・発展や
新規就農を支援するため、地域住民が会員となって作付前に生産者に商品代金を
前払いし、収穫時に農作物を受け取る仕組み)を立ち上げる。
ほぼ自給自足の生活を一から始める話でもある。
文体も軽快で読みやすく、情景描写も細かい(堆肥からたちのぼる湯気とか
食用に殺した牛の臓物についてとか、自家製ソーセージのおいしさなど)
のでその場で一緒に体験しているような臨場感もあって読んでいて楽しい。
農業や自給自足について、“ロハスで楽しいスローライフ”というような
画一的な明るいイメージをうたっているのではなく、リアルな大変さ、
過酷さについてもしっかり触れているので、なんとなく農業の世界に入ってみたい、
と考えている都会育ちの方にとっては、この本、参考になるのではないかと思われる。
「自分が死んだら堆肥にしてほしい」というセリフがある。
「土に還る」とか「ミミズに食べられる」ではなく、「堆肥」という表現。
生命の誕生も死も、自然の一部として何度も経験し、体に染み込み、
ほんとうに農業や畜産にどっぷりつかったからこそ出てくるセリフだなあ、と思った。
貨幣経済や、市場原理至上主義、ファストフード、グローバリズムなどと
対極の思想であるようかのように有機栽培やCSAを位置づける必要はなく、
一つのシステム、ライフスタイルの選択肢として覗いてみるのも悪くないと思う。